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席亭ブログ

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旅の醍醐味

それは道の奥にひっそりとたたずんでいた。

よく来たね。今日はあなたたちが初めてだよ。
そんな声が聞こえてきた。

さきほどまでの曇り空は知らぬまにどこかにいって、
ちょうど陽光が降り注いできたからかもしれない。

湖南から近江八幡への道すがら、信号待ちの際に
道ばたの小さな看板に目がとまった。

―国宝大笹原神社500m

ん?国宝!?

この2文字に目がない僕は慌ててハンドルを右にきった。

ガイドブックは3冊、隅々まで目を通したが
ここに国宝があるとの情報はない。

半信半疑のまま、県道から脇道に車をゆっくり走らせる。
ほどなく森の中に小さな駐車場があらわれた。車は1台もなかった。

車を降りて鳥居をくぐった瞬間、つれが声をあげた。
足先から「びびっと」きたらしい。
説明をみると『須佐之男命』とある。厳しい神様だ。

僕らは誰もいない境内にはいった。
室町時代からたたずむ本殿は、囲いがあって近くまで寄れないが、
欄間や側面にほどこされた彫刻の見事さを双眼鏡で楽しんだ。

神聖さや絢爛豪華さ、荘厳さとも違う、
いままで出会ったなかで一番静かで素朴な国宝だ。

信号で止まらなければ生涯ここに来ることはなかっただろう。
そんな幸運に出会えるのも旅の醍醐味の一つだ。


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