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席亭ブログ

2015年5月の席亭ブログ

  • ご存じの通り、恋愛に関しては失敗ばかり、初心者の寅さん。

    しかし恋愛に悩む若者に対しては、

    「お前いいか、芸者は座敷で口説くもんだ」

    上から目線で達人のごとく。

    旅先で義弟のお父さんに、今昔物語を紹介された。

    「えっこんにゃくが何だって」

    しかしその数日後、義弟に諭すように言う。

    「いいか、これは今昔物語といってな」

    まるで小さい頃から人生の書にしてきた人の口ぶり。寅さんの話を聞いた相手は、

    すっかり心を動かされる。映画を見ている側は当然、

    「どの口が言うか、自分を棚にあげて」

    となってそこがユーモアのツボだ。自分を棚にあげる。気づかない人のことだ。

    「あなたの声を聞かせてください」

    役所によく置かれている、みんなの意見箱。見つけた寅さんは、「あっ」と大きな声

    をその箱に聞かせる。当然何も返答がない。首をかしげて立ち去る寅さん。

    全く気づかない。見ている側はほっこりする。笑いが起きる。

    中国は北京。昔楽しい買い物をした。一軒のジーンズ屋に入った。店内は外国人や

    地元住民でごったがえしていた。 リーバイスやLeeが所せましと並んでいた。

    値札を見ると460元(当時6500円)とある。店内は、せますぎて試着室はない。

    店主だろうか。肝っ玉母さん風の女性が出てきた。頼んでもいないのに、メジャーで

    僕のサイズを測りはじめた。こうされると、だんだん買う気になるのが不思議だ。

    値段交渉が始まった。僕はいきなり100元でどうかと言ってみた。

    にせもの天国の街、大胆にいくのが定石だ。さてどんな反応が返ってくるか。

    「あんた、これ本物のリーバイスよ。知っているのかい。

    100元なんて無茶言わないで。200元でどう?」

    少し怒ったような彼女の真剣な顔が、おかしくてたまらない。

    いったい最初の値札は何なのか。本物のリーバイス、なぜ3000円を切るのか。

    言っている本人が全く気づいていない。

    結局その「本物のリーバイス」は、150元(当時2100円)で手に入った。

    翌朝チャック上部のボタンが綺麗に取れた。

    「先輩もよく頑張りましたよ。以前より成長したと思いますよ」

    大学時代、こんなテニスの後輩がいた。なぜか上から目線でいつも褒められた。

    憎めない後輩だった。上から目線に自分で気づいていない。だから憎めない。

    気づかない人。少し迷惑な人もいるだろう。少し変な人もいるだろう。

    だが愛すべき人もいる。愛すべきキャラの人は、たいてい気づかない。

    どちらかといえば、それは気づいたほうが人生楽しいかもしれない。

    しかし気づかなくても楽しめる人がいる。愛される人がいる。

    寅さんは気づかなかった。そして誰より愛された。

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