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席亭ブログ

2015年2月の席亭ブログ

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    掘り炬燵

    高尾の2つ前、京王線めじろ台駅。半年ぶりだ。
    息が白い。都心の気温より5℃低い。

    ここに降りた時から、それは始まっている。
    実家まで徒歩5分。その5分で時間がどんどん、さかのぼる。
    僕のために、少し大き目に造られた玄関の扉を開ける。

    「あらお帰り。お茶淹れてあげるから、炬燵で暖まりなさい。」

    毎日ここに住んでいるかのようだ。
    あれから20年。ここでは僕は、息子のままだ。

    数年前から指定席が「上席」、テレビの正面に変わった。
    立ったり座ったりが億劫になったのだろう。
    親父があまり座らなくなった。
    席が良くなって、少し寂しくなることもあるのか。

    そしてお袋は買い物に、親父は散歩に出かけた。

    木製の大きな置時計。針の音が今日は大きく聞こえる。
    冬の光が縁側の鉢植えを、優しく照らしている。

    いま一人お茶の時間。ここで起きた「事件」が蘇る。


    16年前の大晦日。
    妹が作ったデザートの杏仁豆腐。
    慣れないキッチンで砂糖と塩を間違えたらしい。前代未聞の味。
    その衝撃の余韻が冷めやらぬ時だった。

    「この人と結婚したい」

    突然、彼女が1枚の写真を出してきた。
    僕より5歳年上、192cm。青い目の大きな「弟」候補。
    先週初めて会ったばかりだと言う。
    家族は皆、そこからあの日の紅白の記憶がない。


    自称六段の弟と、『兄弟3番勝負』。
    正月の恒例行事だった。そして5級の親父が毎度の台詞。

    「そんなところに打つのか。
    お前たちはまだ何も分かってないな。」

    「ほんとそうだねー。」

    僕ら2人は盤面から目を逸らさない。
    高段者は手抜きの技を知っている。

    この光景、弟に娘が出来てここ数年はおあずけ。
    少し残念だ。


    就職、転職、結婚、起業、離婚・・。

    僕の全てを見てきた、唯一の場所。
    時間が戻った気になる、一番の場所。


    ところで、夏のお気に入りの場所はどこなんですか?

    そうか。その手があったかー。
    それは夏にまた話しましょう。